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《125》小児がん、仲間とともに乗り越える

  • 樋口彩夏
  • 2018年2月26日
  • 読了時間: 6分

更新日:2024年5月18日

世間には国民の祝日をはじめ、さまざまな記念日が設けられています。去る2月1 5日が何の日か、皆さんはご存知でしょう か。



生存率 7~8割、治療後の人生長く

2002年、国際小児がん親の会連盟(childhood cancer international:以下CCI) によって、2月15日が「国際小児がんデー」と定められました。CCIは五大陸90カ国から大小177団体が加盟しており、小児がん親の会では国際的に最も大きな団体です。


小児がんとは子どもがなるがんの総称です。不慮の事故を除いて、子どもの死因第1 位であり続けている一方で、医療の進歩によって生存率が7~8割へ向上してきているという事実も同時に存在しています。成人のがんと大きく異なるのは、治療後の人生が長いという点です。幼少期に強い治療を行なった身体で成長し、進学、就職、恋愛、結婚、 出産、老化・・・とさまざまなライフイベントを迎えることから、病気がもとで生じる問題も多岐に渡ります。病気が治った場合も治らなかった場合も、それぞれの苦労があり、 社会の理解が欠かせません。成人のがんに比べて罹患数が少ないがゆえに認知度も低く、 さらなる普及啓発が求められています。



心のケアにもっと目を向けよう

患者に対する支援だけではなく、親や兄弟、関係者など、それぞれの立場に応じた支援が必要ですが、その傾向は成人のがんよりも顕著かもしれません。その中でも対患者の支援だけを大別すると、以下の3つに分けられると考えます。


(1)晩期合併症などに対する医療的支援

(2)学業・就業などの社会的支援

(3)病気から派生する諸々と向き合うための心の支援



必要性の分かりやすい医療・社会支援だけでなく、その素地となる心のケアにも、もっと目を向ける必要があるように思います。私たち小児がん経験者においては、つらい治療が終わっても、病気から派生する不安や困りごとが日常のあちこちに潜んでいるのが実情です。後遺症に対する薬を飲み続けなければいけなかったり、何年何十年経って現れる晩期合併症 に悩まされたり、2次がんのリスクに晒されたり・・・。顔を上げて前進しているつもりでも、落ち込んだり、つまずいたりする要素に溢れているのです。けれども、そんなことのせいで、せっかく治った人生を主体的に生きられないのは悲し過ぎま す。医療支援や社会支援がいくら充実しても、本人の気持ちが伴わなければ意味がありません。


さまざまな壁を乗り越えていくとき、心の支えになるもののひとつに、同じ経験をもつ仲間の存在があります。国際 小児がん デーにちなんで、全国各地で多くのイベントが行われました。その中から、ピアサポート的な活動をしている2つの団体を紹介したいと思います。



「広げよう笑顔の輪」にこスマ九州

今年で法人化5周年を迎えた「にこスマ九州」は、小児がん経験者や家族の支援、正しい知識の普及啓発等を目的に、小児がん経験者が中心となって運営をしている認定 NPO法人です。前身の実行委員会が発足した2009年から数えると活動実績は8年間に及びます。


小児がんの治療は長期に渡ることから、学校生活や友人との交流など、子どもらしい生活に空白が生じやすい側面があります。また、病気や治療による悩みを周囲に話すのは、とても勇気のいることでもあります。日帰りの春キャンプや1泊2日の夏キャンプ、 成人期の悩みを語り合う「にこトーク」、家族の集い・・・etc。同じような経験をもつ仲間と出会い一緒に過ごす時間は、子どもたちにとって心の支えです。



小児がん経験者ネットワーク シェイクハンズ!

がんや難病などの当事者が自助・共助を主とした情報交換等を目的に活動する患者団体 が、多くの疾患で存在しています。小児がんもいくつかの地域に小児がん経験者の会がありますが、地域の垣根を越えて、たくさんの仲間とつながりたい、そんな想いから 「シェイクハンズ!」は誕生しました。


毎年、小児がん啓発月間である9月と国際小児がんデーの属する2月に交流が行われています。全国から集まる多くの仲間と出会うだけでなく、小児がん専門医を講師として招いた学びの時間があることも特徴です。「知る」ことでカタチのない不安が解消されることもあります。2次がんや晩期合併症など、自分たちの身体に起こり得る問題への理解を深めることは、人生を前向きに生きていくために重要なことでしょう。それぞれの頑張りを見聞きすることで明日からの活力が湧いてくるように、お互いの存在が生きる力へとつながります。



 上記の団体が主催するイベントに参加した子どもたちの声に、こんなものがありました。

「憂鬱、孤独、つらくてどうしようもないとき、にこスマを思い出すと一人じゃないと思
える。」
「同じ経験をもつ仲間とのつながりがあれば、前を向ける」
「同じ悩み苦しみ、笑顔をシェアできるにこスマ。みんながいるから前向きになれる、笑 顔でいれる。仲間とともに生きていきたい。」
「自分の病気や生活と前向きに向き合うための、生きる力」


仲間とのつながり、重要

参加者の声からは「にこスマ」や「シェイクハンズ!」がどんな存在であるか、どれだけ愛されているかが伝わってきます。病気と向き合いながらも、自分の人生をたくましく歩んでいる仲間たちの声に勇気づけられました。


しかしながら、仲間とのつながりが求められる一方で、その機会が十分ではない現状があります。小児がん経験者の会は、全国に13あると言われていますが、そもそも患者会のない地域が大半を占めているのです。乳がんの350は比べものにならないけれ ど、血液腫瘍の患者会70と比較しても歴然とした差があります。罹患数に違いがあるため一概に比較はできませんが、希少疾患だからこそ仲間とのつながりがより重要なのではないでしょうか。


小児がんという経験を悲観視するにとどまらず、その経験が人生の糧になったと思えるくらいの心持ちでありたいものです。医学の進歩により治療後の人生が望めるようになった今だからこそ、小児がん経験者同士がつながる機会や、小児がんの現状を社会へ 認知してもらう必要があるのだと思います。


イラスト・ふくいのりこ 



<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/ (アピタル・樋口彩夏)

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