《147》猫と過ごすかけがえのない日々 療養中に才能が開花?
- 樋口彩夏
- 2020年10月15日
- 読了時間: 6分
更新日:2024年5月18日
骨盤骨折による安静加療に入ってから2 カ月ほどが経ち、座ったときの不安定感も徐々に薄れてきたのが4月半ば。日々の生活では、映画の週、本の週、スキャンの週、刺繡(ししゅう)の週と、ほぼ週替わりで娯楽が移ろいます。こんなぜいたく?な時間の使い方は、骨折療養中しかできな いので、仕事や勉強は忘れて、心の充電に努めるようにしています。今回は療養中に私といつも一緒だった相棒・・・猫の話です。
寝たきり生活のその合間合間にやってく るのが、「そろそろ原稿を書かなきゃ」という、現実モードの波。このコラムでは、小児がん経験者、車いすユーザーというマイノリティー当事者のリアルを知ってほしいという思いがあります。調子の悪いときも、なるべく休載ではなく、ありのままを書くよう にしているので、療養中でも「書く」ときはやってくるのです。
かわいいけれど、作業は・・・
このとき、「ニャンサムウェア」(PC作業を妨害してくる飼い猫を指す呼称とされています)が猛威を奮いました。原稿を書こうとしてPCに向かうと、猫がやってきます。キーボードに乗って文字入力を手伝ったり、画面の中を動くマウスポインターに手を出したり。かわいいけれど、作業はちっとも進みません。それどころか、めでる、一緒に寝る、明日になる・・・。「テレワーク最大の敵は、猫かもしれない(笑い)」。そう思うのでした。
コロナの影響が本格的になるにつれて、SNSでも「猫×テレワーク」の投稿をたくさん見かけるようになりました。猫飼いあるあるなのだなあと、思わずニヤニヤしてしまいます。もふもふして、まあるくて。ときには液体みたいにぐにゃぐにゃで。いろんな声でおしゃべりもするし、あったかい。猫って、どうしてこんなにかわいいんだろう。
骨折療養中ですさみがちな私の日常が荒れずにすんでいるのは、猫に癒やされ、励まされ、ゆったりと時間が流れているおかげかもしれません。
そんな愛猫も、いつの間にか2代目になりました。以前、このコラムにも登場した先代猫・メープル(ミルクティー色、オス)は、悪性リンパ腫で亡くなってしまったのです。2年という短い生涯でしたが、立派な家族の一員でした。悲しさのあまり、「もう猫は飼わない」と思ったときもあったけれど、今では2代目を迎え入れてよかったと思っています。
2代目・レイちゃん(サバ白、オス)は、おなかや手足、顔の下側は真っ白だけど、それ以外は白から黒の濃淡でサバのような模様をしています。宝石ペリドットのようなグリーンの虹彩(こうさい)は、光を受けると、より鮮やかになり、いつまでも見つめていら れる美しさです。
おしゃべりな2代目
「二人」とも、美猫なのは変わらず、かなりのイケニャン。先代は寡黙でしたが、2代目はとってもおしゃべりで、にぎやかになりました。日本語や猫語で話しかけると、いろんな鳴き方で返してくるので、猫語のバリエーションの多さに驚きです。また、あちこち高いところに登らないので安心です。先代は、動くたびにゆさゆさ揺れるルーズスキン (皮膚のたるみ)があってかわいかったのですが。
水を飲むのも、砂かきも、2代目は上手です。去勢手術のときも、先代は傷口をかみちぎったりして大変だったけれど、2代目は気にならないみたいで何事もなく終えることができました。
甘えん坊度は、先代よりパワーアップ。家中、どこにでもついて来て、ひざや車いす、 ベッドなど、だいたい手の届く距離でくつろいでいます。これで一緒にお風呂に入ってくれれば言うことなしなのですが、水は苦手なようで、入り口で待ってくれています。遊び方も独特で、あまり動けない私に寄り添ってくれる親切さ。猫なのに、犬のような「とってこい遊び」が好きなようで、おもちゃを投げると、くわえて持ってくるので「省エネ」です。
2代目は、筑後川の河川敷で生活しているところを保護されました。お母さんときょうだい二人と一緒に里親を募集していたようですが、一番かわいいのに、最後まで残っていたそうです。あまりにもビビリな性格でトライアル先になじめず、何度目かのトライアル先が私のところでした。ベッドの下に隠れてシャーシャー言い、へっぴり腰で逃げ回っていた姿を思い出すと、こんなに懐いてくれたことを感慨深く思います。
先代が苦手だったことが上手になって生まれ変わったのか、はたまた、いろいろなことを教えて引き継ぎをしてくれたのか――。いずれにしても、どちらもかわいい、それに尽きます。
刺繡は無事に完成
そういえば、寝たきりの暇つぶしとして始めた刺繡も、無事に完成させることができました。スキャナーのほこり防止用カバーにレイちゃんを刺繍したものです。刺繍以前に、立体的なカバーを作ることに苦労しましたが、刺繍自体は毛並みや柄も再現し、やたらとリアルな仕上がりに。デフォルメしていないので、かわいげがないという声もありました が、初めてとは思えない出来栄えに大満足です。
暇つぶしとはいうものの、骨折によって普段の生活は中断せざるを得なくても、せめて新しいことにチャレンジしたいと始めたものでした。手芸の類はほとんど経験がなく、猫の柄でなければ投げ出していたかもしれません。無地のスキャンカバーにならずにすんで、めでたし、めでたし。
かわいいだけではなく、人の成長も手助けしてくれる猫の存在は偉大です。これからも元気に長生きして、たくさんの時間を共有できたらいいなと願います。

イラスト・ふくいのりこ
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このコラム「彩夏の〝みんなに笑顔を〟」は、今年いっぱいで連載が終わります。最後 は、少しでもみなさまと双方向のやりとりができればいいなと考え、みなさまからの質問 やリクエストを募集しています。ご意見、ご感想なども、大歓迎です。病気や治療、障害 のことをはじめ、それ以外のことでも構いません。どしどしお寄せください。これまでの 感謝を胸に、次回以降のコラムで可能な限りお答えしていきます!
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<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>
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