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《25》 消灯後の病室で、ひとり涙を流す

  • 樋口彩夏
  • 2013年7月15日
  • 読了時間: 4分

8月5日 火曜日 から 8月18日 月曜日

晴天にめぐまれ、夏らしく気持ちのいい朝。

前夜、救急車で病院へ運ばれた私は、救命救急センターのベッドで一夜を明かしました。

いつになく スッキリとさわやかな目覚め。

昨日のドタバタがまるで他人事のような錯覚を覚えるも、ずっしりと重たい感情が私を現実に引き戻します。

昨夜、緊急で行った検査の結果が良くなかったので、しばらく入院をして詳しく調べることになりました。

それは、CTの画像を診た医師の顔色に陰りが出たことが予告していたことでもあります。

救命センターから整形外科の病棟へ。

突然のことだったので 生活用品などの荷物もなく、身体ひとつの身軽な引っ越しでした。

新たな病室は、6人部屋。

私のベッドは、入口をはいって右側の一番手前、廊下側のベッドです。

となりには、1つ年下の女の子が足の骨折で入院していました。

ほかは、お年を召したお婆さま方。

最初は新鮮だった入院生活も、2日もすれば退屈になってきます。

相変わらず 足は痛むし、しびれてもいるけれど、それを除けば健康そのもの。

元気もあり余っていたので、病院の中を探検したくてウズウズしていました。

あまり歓迎できることではないけれど、せっかく入院したのだから それくらいの楽しみがなくちゃ!

でも 結局、ベッドから動くことができなかったので、おとなしくクロスワード三昧な2週間となりました。

そのときの私にとってクロスワードは、娯楽でもあり、つらい現実から気持ちをそらすための道具でもありました。

なにかをしていないと、

“今ごろ、部活のみんなは何をしているのだろう?”

“9月の大会の曲は決まったのかなぁ?”

“私はここで何をしているのだろうか?”

など、いろいろと考えていまい、頭の中も気持ちもたちまちすさんでいくのが自分でもよく分かりました。

いくつかの検査をしたところ、「病名までは分からないけれど、腰に腫瘍がある。」ということが分かりました。

主治医によると、そこの病院ではむずかしくて対応できないらしく、近くの大学病院へ転院することに。

8月18日 月曜日 から 9月2日 火曜日

「《21》最初は「異常なし。様子をみましょう」 」で書いたように、“大学病院を受診するほどではないだろう”と思っていたのに結局、大学病院行きになってしまいました。

前の病院と同じく、整形外科の病棟へ転院です。

ここも6人部屋。

今は4人部屋が主流になってきていますが、10年前の当時の大部屋といえば、ほとんどが6人部屋でした。

こんなところでも時の流れを感じます。

今度は、入口をはいって右側の一番 奥、窓際のベッドでした。

その病室では 私が最年少でしたが、母と同世代くらいの方が多く、以前の病室に比べて 平均年齢が15歳ほど若くなりました。

「《17》病院のベッドで見た斜めドラムの衝撃」で触れた内容と笑顔のたえない病室とは、このときの話だったのです。

大学病院へ移ったころ、私の言動に変化がありました。

前の病院にいたときは、「はやく部活に行きたいよー」、「いつ退院できるの?」、「来月の大会には出られるよね?」など、母が面会に来るたびに そんな質問をくり返していました。

もちろん 頭では、その質問に対する答えも分かっていたし、母に聞いても意味がなく、困らせてしまうだけなのも十分理解していたつもりです。

それでもあのときの私は、その愚問を口に出さずにはいられなかった――。

でも、いつの間にか、「はやく学校や部活に行きたい」という類のことを言わなくなっていました。

痛みをともなう検査をいくつも受けているうちに、自分の予想 —この入院、長くなりそうだ……。これが あながち外れていないだろうと確信をもつようになったのです。

すると、若干腹が据わってきたのか、それともただの強がりなのか、日中は“入院生活、楽しんでいます♪”な雰囲気を装って過ごすようになりました。

私がショボンとしていると、母や弟はもちろん、父や医師・看護師さんにも心配をかけてしまうので、昼間はなるべく明るく努めます。

“私は、どうして突然、歩けなくなってしまったのだろう・・・。”

消灯後に ひとり悶々とし、ときには声を殺して涙を流す――孤独な2週間でした。

つづく……

イラスト:ふくいのりこ 


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