《38》 颯爽と風を切るハンドバイク
- 樋口彩夏
- 2013年11月12日
- 読了時間: 3分
車いすの生活になって、7年が経とうとしていた2010年2月。
私は、当時20歳。
病気や治療の後遺症のため、車いすをこぐことに制限がありました。
「でも、ひとりで動きたい!徒歩(車いすをこぐ)がダメなら、自転車だ!」
車いす以外の移動手段を求めて、足の動かない私でも乗れる自転車を探しはじめました。
でも自転車は、足でペダルをこぐことで動いています。
足が動かなくても乗れる自転車なんて、あるのだろうか・・・?
体調のよいときを見計らい、インターネットをつかって調べること、幾日か。
いろいろな自転車を集めたレジャー施設……、これは違う。
足は動くけど車いすに乗っている高齢者向けに造られた、足こぎ車いす自転車……、これも違う。
あれこれ調べて、ようやくハンドバイク(ハンドサイクル)を見つけました。
(試しに当時とおなじように検索してみたら、3年違いとは思えないくらいの情報量でビックリ。障害者スポーツの普及を感じました)
おっ、あった!と思ったのも束の間、どれも関東や関西ばかり。
やっぱり九州にはないのかな…… と諦めかけた。
そのとき、“福岡県”の文字が目に留まります。
それは、地元新聞紙の一部を切り抜いた写真でした。
福岡県を拠点に活動をしているハンドバイククラブ代表・F氏のお話が書かれていました。
その末尾には、携帯番号。
すこし古い記事だったけれど、思い切って電話をかけてみました。
知らない番号からの着信に、最初こそ怪訝そうな様子がうかがえるも、電話口の男性は優しそうな方。
いろいろとお話をした末、一番近い日程の練習日に試乗をさせていただけることになりました。
まだコートが手放せない、2月はじめの昼下がり。
自宅から車で45分ほどのところへ、母の運転で向かいます。
福祉系の総合施設内にあるグラウンドで、ハンドバイククラブの練習は行なわれていました。
母に車いすを押してもらい、グラウンドへ。
「おぉー、来たか!待っとったぞー!」と迎えてくれた代表の声からは、元気があふれていました。
そこにはハンドバイクで風をきり、颯爽と走る、30代後半~50代の男性が4人。
早速、私もハンドバイクに乗ってみました。
「楽しい〜♪」
すこしの動力でグンと進み、風をうけて走る
――ひさしぶりの感覚に、嬉しさと懐かしさがこみ上げてきます。
まるで子供がはしゃぐように、童心にかえってグラウンドを走りました。
ふつう、生活の中でスピードを体感する機会といえば、歩く、走る、自転車、すべり台、ブランコ、ジェットコースターなど、遅いものから早いものまでさまざま。
それに比べて、車いすでの生活になった私の体感スピードといったら、常にのろのろ程度。
とうの昔に忘れていた“風をきる”という爽快感を、ハンドバイクが思い出させてくれました。
それは、ほんのわずかな時間だけれど、身体の不自由さを忘れさせてくれた――
あのときに感じた、解き放たれたかのような感覚は、いまでも鮮明に覚えています。
ハンドバイクとは、手でこぐ自転車。
それには車いすユーザーにとって、自転車を超える、夢が、可能性がつまっていました。
でも、この日。
それ以上の出会いがあった………。

イラスト:ふくいのりこ
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