《61》 使わなかった、かわいそうな、はがき箋
- 樋口彩夏
- 2014年5月14日
- 読了時間: 5分
週末のある日、知人に借りていた本を返そうと思い立った、私。
お礼の言葉を添えるため、部屋の一角にある手紙グッズコーナーへ向かいます。
どれにしようかな〜♪と悩んだ末、手に取ったのは、四葉の挿絵がはいった一筆箋でした。
手紙グッズたちをしまっていると、懐かしい絵柄に目が留まります。
とり出してみると……、昨年の夏に買った、はがき箋!
イタリアの港町が描かれた、さわやかな雰囲気がお気に入り♪
それなのに、一度も使うことなく、すっかり忘れ去られていました。
なんて、かわいそうな、はがき箋。
「はがき箋、ごめんね……、許しておくれ。ちゃんと使うから」
そう遠くないうちに必ず使うと約束し、はがき箋を手紙グッズコーナーへ収めました。
年少の私が“友人”と呼ぶには、おこがましいほど年は離れているけれど、慕っている人のことを、なんと形容したらよいのでしょうか?
他愛もない会話もするけれど、根底には相手への尊敬が流れている――そんな“友人”が幾人かいます。
会おうと思えば、いつでも会える。
そう思っていた人と会う約束が流れたとき、なんとも言えない喪失感が生まれました。
埋もれていた、はがき箋。
いつでも会えるが崩れたときの喪失感。
ふと思い浮かんだのは、今は亡き大切な人たちの顔でした。
その人たちが亡くなる度に、「あのとき、ああしていれば……。」と、後悔をしたことがあります。
● 入院中に仲良くしてくださった、強くて温かいハートをもった食道がんのおじさま、Tさん
一足早く退院した私は、3、4回のお見舞いの後、Tさんの退院を見届けたきり、疎遠になってしまいました。
元気かなぁ、電話してみようかなぁ、と思うことは何度もあったけれど、億劫でついつい後回しに……。
ある日、Tさんが夢に出てきたことがあります。
あとで知ったところによると、Tさんがなくなったのは、その翌日だったそう。
あのとき、電話していればよかった……。
● 自分のことを「神戸のヒーロー」と言う、熱くて熱くて繊細なヒト
彼が情熱を注いでいた、神戸でのライブに誘ってもらったことがありました。
病状が芳しくない中での出演を、そばで見守りたかった、というのが素直な気持ちです。
それでも私は、次があるだろうと信じ、神戸へ行くのを見送りました。
でも、それが最後のライブとなってしまった……。
● 孫のように可愛がってくれた、温和で紳士的なUさん
私と家族の健康を気遣った内容の手紙や電話、贈り物を、程よい間隔で定期的にくださっていたUさん。
ある日、人が変わったかのように、毎週しだいに毎日と、メールや電話が来るようになりました。
どうしたのだろう?と心配しつつも、新しい生活による慌ただしさから、最後の方は返事が追いつかないことも……
それでも、送られて来るメールと留守番電話は、私の健康と幸せを願うものでした。
胸騒ぎを感じ、週末に電話をしようと思った次の日、ご家族からの電話で訃報を知りました。
● 唯一の幼なじみT
埼玉から福岡へ転校して以降、SNSを通じて、9年振りにTと連絡をとるようになりました。
周りからは、あまり良い話を聞かなかったけれど、根は悪い人じゃない、そう信じたかった。
でも、怖くて私は連絡を絶ってしまいました。
その1週間後、Tからのメールを最後に、テレビのニュースで事故による訃報を知った。
どうして、最後まで信じてあげられなかったのだろう……。
● 小学校の恩師H先生
在学中も卒業後も、とてもお世話になっていて、慕っていた先生のひとりです。
私が病気になってからは、お見舞いの面会や手紙と、いつも気にかけてくださったH先生。
先生が病に伏してからは、今までの感謝も込めて、たびたびお見舞いへ行っていました。
自宅療養になったころ、ご自宅へ行こう行こうと思っていた矢先、先生は亡くなってしまった……
お葬式へはもちろん行ったけれど、ご自宅へのお参りは、まだ行けずにいます。
人の命は、儚いものです。
昨日まで、いや、さっきまでとなりで話していた人の命が、一瞬で消えてしまうことだってある。
人生は、命は、有限であって、永遠ではありません。
それは、だれに対しても、おなじ。等しく、ふりかかる事実です。
入院病棟で、ベッドが空く——それは退院か死を意味しています。
長い闘病生活の中で、人の死はすぐ傍にありました。
そのことから、命の重みや儚さについて、身にしみて理解していたつもりです。
でも、私は、弱かった。
“今の生活”に流されて、大事なことを忘れていたのです。
もう、後悔したくない!
大切な人たちの死から想うことは、3つあります。
大切な人は、いつ何時も、大切にしたい!
いつでも会えるは、大間違い!
今にかまけて、疎かにしてはいけないモノがある!
はがき箋を買った目的は、遠方に住む大切な人たちへお便りを出すためでした。
気軽に連絡のとれるメールもよいけれど、たまには相手を想いながら筆をとる、そんな習慣もステキだなぁ、と思ったのです。
「あの人は今、どうしているのだろう?」
そう誰かの顔が浮かんだときには、迷わず、手紙やメール、電話ができる人になりたいなぁ。
まずは、その時々で、目の前にいる人を大切にしたい。
そのうえで、大切な人を大切にできる強さを身につけたいものです。
早速、はがき箋を使おうかな♪

イラスト:ふくいのりこ
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