《66》 洋服が入らない!
- 樋口彩夏
- 2014年6月20日
- 読了時間: 4分
長い入退院が終わり、ごく普通の生活を送れるようになって、2年と少しが経ちました。
大きく体調を崩すこともなく、充実した日々を過ごせることに、幸せを実感する毎日です。
でも、最近、悩んでいることがあります。
「洋服が入らない。」
これだけだと、ふざけているように聞こえるかもしれませんが、いたって真面目な話です。
私は、11年前、病気の後遺症で歩けなくなりました。
車いすで生活をしていることから、歩いている人に比べると、腕を使う機会が多い状況にあります。
日々の車いすをこぐ動作が筋トレ代わりになっているのか、腕の筋肉が発達していくのが見てとれます。
お風呂で身体を洗っていると、腕のたくましさに驚くことが度々ありました。
力を入れたときの前腕部の固さなんて、女性の腕とは思えないほどです。
筋肉がつくとつれ、腕も太くなっていきます。
ここで、問題が発生しました。
スーツのジャケットが入らない!
先日、会議へ出席するため、ジャケットを着ようとしたときのことです。
半年ぶりに袖をとおしたら、袖がぱつぱつで、途中までしか着ることができませんでした。
1カ月前の話です。
そして今度は長袖シャツが入らない!
梅雨のどんよりした気分を晴らそうと、白いシャツが着たくなりました。
でも、袖が……。
一応、着られたけれど、ぱつぱつで腕が曲がりません。
よって断念したのが、2週間前のことです。
前々から筋肉がついたな……と危機感を持っていたけれど、
いざ洋服が入らないとなるとショックを隠せません。
こうなったら、着られるかどうか怪しそうな洋服を全部チェックしよう!と、思い立ったのが先週末です。
その結果、お蔵入りとなった洋服は、長袖シャツ5枚のうち3枚、ジャケット3着のうち3着。
ジャケットにいたっては全滅という、悲惨な結果となりました。
最後に着たときから、最長で1年、最短で4カ月しか経っていません。
とうに成長期はおわっているのに、こんなに短期間で着られなくなるなんて信じられません。
発病前から筋肉がつきやすい体質だったけれど、あんまりです。
これから先の車いす生活を思うと、常に悩みとしてつきまとうことが予想できます。
しかし、筋肉がつくのは、悪いことばかりではありません。
車いすで生活をする以上、何をするにしても、腕の力が必要です。
車いすをこぐ、自動車やお風呂、ベッドなどへの乗り移り、
床ずれ防止のプッシュアップなどなど、生活のさまざまな場面での動作が楽になりました。
さらに、今までは傾斜が急で登れなかったスロープも、登れるようになりました。
このことは、生活の幅が広がったという意味で、とても重要なことです。
でも、やっぱり女性としては、おしゃれも楽しみたいところ。
カワイイものやキレイなものに、ときめいてしまうのが女心でしょう。
けれども、健康な生活を送るかぎり、腕の筋肉が落ちることは望めません。
洋服の選択肢が狭まってしまうのは仕方のないことだけれど、
着たいものが着られないのは、なんとも言えない寂しさがあります。
それでも、着られない理由が「袖が入らない」だから、自分でも笑ってしまいます。
とりあえず、選ぶ楽しみができた♪というところに落ち着きました。
先日の「着られる服の選別で、着られるジャケットが一つもないことが判明しました。
会議など、カチッとした場へ行くことが増えてきたので、この状況は好ましくありません。
袖が入るサイズになると、身頃が大きすぎる懸念があることから、ジャケット探しは難航しそうな予感です。
そういえば、なぜ今、筋肉問題が浮上したのかについて、触れていませんでした。
車いす生活になって11年と言ったものの、まともに動けるようになったのは、ここ2年の話です。
うち1年は、入退院生活で衰えた身体の回復期間のようなもので、人並みに外出ができるようになったのは、
就職をした昨年からという経緯があります。
それ以前は、体調不良から寝たきりの時間も長く、車いすは専ら誰かに押してもらっていました。
当然、筋肉が……なんて問題には至りませんでした。
それを思うと、筋肉がついて洋服に困るなんて、ぜいたくな悩みです。
置かれている状況が変われば、悩みも変わるのですね。
人間って欲深いというか、単純というか。
適応すると言えば聞こえは良いけれど、"普通の生活"ができる有り難みを感じられる心は、忘れたくないなと思いました。
腕が入る、お気に入りのジャケットが見つかるといいな♪

イラスト:ふくいのりこ
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