《91》 快適な丸坊主ライフ
- 樋口彩夏
- 2015年3月6日
- 読了時間: 3分
髪の毛が抜けてしまうのも、化学療法による副作用の一つです。
前回は、脱毛という副作用をどう受け止めたかなど、髪が抜けるまでの出来事を書きました。
髪の毛を1万本数えちゃうなんて変わった子だと思われていそうですが、引き続き「脱毛」の話題です。
鏡に映ったのは、眉毛もない、まつげもない、髪の毛もない、私――。
まるで別人でした。
「・・・・・・。 けっこう、似合ってるッ♪」
強がりでも何でもなく、当時の私の率直な感想です。
髪が抜けたにも関わらず、鏡片手に頭を触りながら、「これ、似合う!いいねぇ〜、気に入った♪」と、上機嫌でした。
抗がん剤を投与して10日ほど経つと、面白いほどにスルスルと髪の毛は抜けていきます。
“根こそぎ”という表現は、このためにある!と思えるくらい、つるっつるの丸坊主に仕上がりました。
つるつると言っても、バリカンやカミソリで剃った坊主頭とは、格が違います。
なにしろ、毛根から抜けているのだから、チクチクする要素がありません。
それは、もう、抜群の触り心地です。
とくに後頭部を触ったとき、手のひらが“ヘタっ”と吸い付く感触は、たまりません。
ベッドサイドに人が来るたび「頭、触ってー。気持ちいいよ♪」と、言いながら頭を差し出すのが恒例となっていました。
いざ髪が抜けると、帽子やバンダナ、ウィッグなどで頭を隠す人が大半です。
本人が脱毛を悲しく思っている場合、見られたくないと思うのが当然の心理でしょう。
周りの人の立場でも、痛々しい姿を見つづけるのは、つらいことだと思います。
帽子などをかぶることで、本人はもちろん、まわりの人も心穏やかに過ごせるのなら、大大大賛成です。
かく言う私は、帽子などをかぶったことがありません。
ある日、母が、周囲の視線がつるつる頭に集まることを気遣って、帽子をかぶるよう勧めてきたことがありました。
私は、その発想が不思議でした。
「どうして帽子をかぶらなきゃいけないの? 見たい人は見れば良いんだよ?。」
治療の副作用で髪が抜けているだけであって、悪いことをした訳でもなければ、恥ずかしいことでもありません。
みんながジロジロ見ることだって、珍しいものを見たくなるのは人間の性と言えるでしょう。
小言を言う人もいるかもしれないけれど、見たい人は見れば良い、言いたい人には言わせておけば良い、それだけの話です。
母は私の返答を受けて複雑そうにしていましたが、それ以来、帽子の類を勧めることはありませんでした。
丸坊主は、管理が楽なのも大きな利点です。
当時は寝たきりでお風呂に入れなかったけれど、清拭のついでに頭を拭けば地肌の清潔も保てました。
顔の延長で、ずいと後頭部まで拭いてしまえば済むのだから、なんて楽なのでしょう。
それに、ふにふにと柔らかい地肌を触っていると、とても癒されます。
似合っているし管理が楽、そのうえ癒しにもなる、つるつる頭、気に入らない理由がありません。
私にとっての坊主ライフは、快適そのものでした。

イラスト:ふくいのりこ
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