《108》 災害弱者の支援名簿、有効活用を 熊本地震受けて
- 樋口彩夏
- 2016年5月16日
- 読了時間: 4分
熊本地震のあった週末が明けた月曜日、職場で次のような話が話題にのぼりました。「そういえば、『災害時要援護者名簿』って、あったよね? あれって、今回の地震で活用されたの?」
車いす被災者の困難 震度5強を受けて考えたこと
私にこう問いかけたのは、難病関係の話題に明るい方でした。日頃から災害弱者の支援に関心があったのでしょう。かくいう私は当事者にも関わらず、「災害時要援護者名簿」の認識は薄く、そういえば数年前に登録したような気がする……といった程度の記憶しかありませんでした。
災害時要援護者名簿(以下、名簿)(注1)とは、自力で避難することが難しく、支援が必要な要介護の高齢者、障害者、難病患者たちを把握するためのものです。市町村によって作成された名簿は、警察や消防、民生委員などの間で共有され、災害時の情報伝達や安否確認などに活用される仕組みです。総務省の調査によると、2015年4月時点での整備状況は約52% にとどまっていますが、13年の災害対策基本法の一部改正で作成を義務付けることが規定されたので、その後の状況が気になるところです。
では、この名簿、災害時はどのように活用されるのでしょうか。
内閣府が示す「取組指針」から"名簿の活用"に関する部分を要約します。
(1) 避難のための情報伝達
避難準備情報、避難勧告、避難指示の発令等を適時適切に知らせること。「自主避難の呼びかけ」等も重要な情報である。高齢や障害を考慮し、一人一人に的確に伝わるよう多様な手段(メール、FAX、手話など)を用いる配慮が必要。
(2) 避難支援
名簿情報に基づいた避難支援を行う。関係者の安全確保、名簿情報の守秘義務にも気をつけること。
(3) 安否確認の実施
名簿を有効に活用すること。避難行動要支援者が無事であっても介護者や保護者が被災すれば、避難はおろか、その後の自力生存も困難となり命も失われかねない。在自宅避難者の安否確認も重要。また、福祉サービス提供者(ケアマネージャー等)が地域において重要な役割を担っていることも多い。積極的に連携していくことも有効な方策のひとつである。
(4) 避難場所以降の対応
避難場所から避難所への移動を支援。名簿情報も避難所へ引き継ぐ。
先日の熊本地震で私の住む福岡県久留米市は震度5強が観測されました。けれども、名簿が活用された気配はありません。
10段階に分かれる地震階級の中でも震度5以上は体感・実害ともに、けっこう大きいような気がします。今回使わないのなら、いつ使うのだろう? と、疑問がわいてきます。
そこで、今回の対応について、久留米市へ問い合わせてみました。
Q1: 今回、名簿は活用されましたか?
A1: いいえ。地震規模も小さく実質的な被害がなかったので、不要と判断しました。
Q2: "活用"には「情報伝達」も含まれているかと思います。災害対策本部が設置され、自主避難の呼びかけとともに市内の全小学校とコミュニティーセンターが避難所として開設されました。視覚・聴覚障害をはじめとした「情報保障」が必要な方に対して、それらの情報を伝える配慮が必要だったのではないでしょうか?
A2: "避難指示"レベルであれば講じると思いますが、今回はあくまでも"自主避難"なので。義務付けられているのは、名簿の作成までです。
この回答と国の指針の間には、情報伝達の点で、矛盾が生じているように思います。自主避難の呼びかけ等の情報保障にも重きを置いている内閣府と、それを軽視した市の対応。避難指示に至る前段である避難準備情報を伝える姿勢の温度差は否めません。正直なところ、市の姿勢には共感できないし、腑に落ちない部分もありました。しかし、想像するに、多くの自治体の実態を表しているのでしょう。
法律(災害対策基本法)に災害弱者を支援する取り組みが確保されているのは良いことだけれど、その主旨が実務にあたる市町村にまで浸透していなければ意味がありません。その上で、実際に施行されなければならないのです。名簿を作るだけではなく、災害時において有効に稼働する仕組みであってほしいと思います。
(注1)災害時要援護者名簿とは、災害対策基本法における避難行動要支援者対策の一環である。自治体によって名称が異なるのは法改正以前の名残で、国の定める名称は「避難行動要支援者名簿」となっている。

イラスト:ふくいのりこ
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