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《90》 脱毛、いよいよ来たぞ

  • 樋口彩夏
  • 2015年2月25日
  • 読了時間: 4分

化学療法による副作用のひとつに「脱毛」があります。

抗がん剤治療による脱毛を語るうえで外せないのは、「坊主期間をどう過ごすか」ということでしょう。

髪の毛の「脱毛」を3段階に区切り、複数回にわけて当時をふり返ってみたいと思います。

・抜けるまで

・抜けてから

・生えはじめ

今回は、髪が抜けるまでの過程について書きます。

髪が抜けてから帽子をかぶったりウィッグをつけたりする話は、経験談などでもよく見受けられます。

しかし、抜けるまでの間に起こる心境の変化や行動などの実体験は、あまり語られていないように思います。

治療時の年齢や性別、個人の性格によって、受け止め方は大きく異なるところでしょう。

私の反応は、かなり例外的であると自覚しています。

そのことを踏まえて、読み進めていただければ幸いです。

当時の私は、中学2年の女の子です。

インフォームド・コンセントの際、脱毛の副作用を説明する主治医の話振りから精一杯の思いやりを感じました。

年頃の女の子にとって脱毛の副作用は酷なことだろうと、気遣ってくれたのでしょう。

しかし、そんな周囲の心配をよそに、私はけろりとしていました。

なぜなら、生死をかけた治療において、髪が抜けることなんて大した問題ではないと思えたからです。

病気の性質や治療の顛末を知れば、生きるために副作用を避けて通れないのは明確でした。

抗がん剤という強い薬を使うのだから、それ相応の副作用があって当然です。

ましてや、髪が抜けても再び生えるのであれば、憂うにも値しないという発想のもと、「抜けた髪で、カツラを作ろう♪」と、暢気なものでした。

化学療法が始まって10日くらい経つと、髪が抜け始めます。

抜けるときの痛みはなく、枕に落ちている大量の髪の毛を見て気がついたくらいです。

抗がん剤の威力を再認識しつつも、覚悟は決まっていたので、「おぉ!これが副作用のひとつ、脱毛かぁ。いよいよ来たぞー。」と、ワクワクする私がいました。

一方、小児病棟で似たような治療をしている仲間に目を転じると、やはり脱毛はショッキングな出来事のようです。

髪が抜けるのは嫌と落ち込む子もいれば、親御さんが大丈夫だよと優しく励ます光景もありました。

抜けたときに備えて、帽子やウィッグの情報が飛び交い、購入している家庭もあったようです。

脱毛を迎えるにあたっては、準備をする人、しない人、おおむね2つのタイプに分かれるような気がします。

私は抜けるまで、髪の毛を大事に大事にとっていました。

「自毛カツラ製作」も目的のひとつでしたが、もうひとつの理由は、修学旅行用のパスポート写真撮影を数日後に控えていたからです。

“とっておく”と言っても、脱毛は待ってはくれません。

抜けた髪が、まだ生きている髪に絡まり、かろうじて地肌に留まっている状態を維持しようと、なるべく頭を動かさないように努めていました。

微力ではあるけれど、脱毛への些細な抵抗です。

その数日間は、とても焦れったく感じたのを覚えています。

(結局、治療の真っ最中のため、修学旅行には参加できませんでした)

写真を撮り終えると、「待ってました!」と言わんばかりに、抵抗なく抜ける髪をつかみ、箱に入れていきました。

いつか“自毛カツラ”を作る日まで、きれいな花柄の箱で大切に保管しておくつもりです。

箱いっぱいの髪の毛を見ていると、「髪の平均本数10万本」を確かめたくなってきました。

寝たまま、胸に髪が入った箱を抱え、1本1本、本数を数えていきます。

数えても数えても、箱の中身は減りません。

3日間で10979本まで数えたところで諦めてしまいましたが、量的換算したら10万本くらいはありそうな感じでした。

ふり返ってみると、よく1万本も数えたなぁと苦笑いするしかありません。

余談ですが、気晴らしに、小児科へ移る前にいた整形外科の病棟へ遊びに行った日のことです。

久々の車椅子をぎこちない手つきでこぎながら、エレベーターに乗って5階から3階へ向かいました。

整形でなじみの看護師さんとおしゃべりを楽しんでいると、後ろから別の看護師さんが言います。

「やっぱり、彩夏ちゃんだー。髪が落ちていたから、来ているんだろうなと思ったよ。」

どうやら私の通った跡には、髪の毛の道ができていたらしいのです。

お掃除の方にとって、とても迷惑な散歩だったのだろうなぁと、今になって思います。

次回は、髪が抜けてからの坊主期間について。

イラスト:ふくいのりこ

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