《102》 「痛みスケール」を久留米弁で表現したら
- 樋口彩夏
- 2016年2月23日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年5月18日
日本列島、津々浦々。北から南まで、さまざまな方言が存在しています。そのそれぞれに特徴があり、みなさん、お国言葉には愛着を持っているのではないでしょうか。標準語を話す人から見れば、ちょっとした憧れを抱くなんてこともあるかもしれません。前回につづいて、"方言と医療"についてです。
「先週から、腰痛がひどくて――」
がん性疼痛(とうつう)をはじめとした強い痛みを抱える患者は、ペインクリニックで医療者の力を借りながら疼痛管理を行うことがあります。私も10年来、麻酔科にかかっている一人ですが、その経験から実感するのは「痛みを他人に伝えるのは難しい!」ということです。
いかに正確に痛みを伝えるか。問診では表現力が問われます。
しかし、どれだけ正確さを心がけても、人それぞれ痛みの感じ方は違うものです。このため、主観的な痛みの程度をなるべく客観的に把握できるように、数値や表情を尺度にした「痛みスケール」が用いられます。
この「痛みスケール」を方言で表したら、どうなるでしょうか。方言と言えば、標準語と比べて表現の幅が広く、微妙な気持ちのニュアンスなどを細部まで表現できることも特徴のひとつです。関東から九州へ転居した"なんちゃって九州人"の私が、生活の中で耳にする方言を用いて「痛みスケール(九州版)」を作ってみました。
現在住んでいる久留米市は、福岡県の南部(筑後地方)に位置する中核市です。久留米弁は標準語と比較すると語気が強かったり、早口な部分もあったりするので、耳が慣れるまではけんかをしているように聞こえて、すこし怖い印象を受けました。
痛みの程度を表す表現は、次のように発展していきます。
どんなか(なんともない)
いっちょん、いとなか(全然、痛くない)
↓
ちーったぁ、痛かもんね?(ちょっとだけ、痛いんだよね?)
↓
えらい、痛かやん(すごく痛いんだよ?)
がば、痛か(とても痛い!)
↓
いとしてたまらん(痛くてたまらない)
↓
どんこんされんごつ痛かっちゃん(なにもできないくらい、痛いんだよ!)
↓
もうでけん(もうダメだ)
しまえた(終わった)
痛い! という状況は、患者にとって一大事です。そんな大変なときに標準語でキレイに表現なんてしていられない! というのが、正直なところではないでしょうか。
また、方言でしか伝えられない痛みがあるのも事実です。患者が自身の状況を語るとき、もっとも的確に表現できる手段――。それは、方言なのかもしれません。

イラスト:ふくいのりこ
<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>
http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/ (アピタル・樋口彩夏)
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