《64》 映画館の寂しい車いすスペース
- 樋口彩夏
- 2014年6月5日
- 読了時間: 4分
週末、映画を観てきました。
ひと昔前の映画館というと、
階段を降りた地下だったり、劇場までの移動経路に階段があったりと、
車いすで気軽に行ける場所ではなかったように思います。
日本へシネマコンプレックスが本格的に参入してきたのは、1990年代と最近の話です。
その広がりによって、車いすでも行きやすい映画館が増えてきました。
時代の流れにともない、車いすに乗ったまま鑑賞のできるスペースを設けているところがほとんどです。
劇場内の座席は、階段様に高さをずらして配置されていることから、車いすスペースがあるのは最前列もしくは中央の通路に面した列となっています。
その一角に座席を2、3席取り外したスペースを設け、車いすマークが示されているのが一般的です。
車いすにして1台分、広い場所では2.5台分といったところでしょうか。
私は、この車いすスペースを利用したことがありません。
なぜなら、とっても寂しい場所に設置されていて、実用的ではないからです。
映画館へ行くシチュエーションを想像してみてください。
座席はどこを選びますか?
横の列は、通路側が都合のよい場合もあるかもしれません。
縦の列は、快適にスクリーンを見られる、真ん中以降の座席を選ぶ人が多いのではないでしょうか。
よほど混んでいない限り、最前列に好んで座る人は少ないように思います。
でも、車いすスペースがあるのは、スクリーンを見上げなければいけない最前列です。
友人や恋人、家族と一緒の時は、どうでしょうか?
隣同士に並んで鑑賞したいと思うのが、普通だと思います。
でも、車いすスペースは他の座席から孤立して、ぽつりと設置されている場合がほとんどです。
一緒に映画を観たくて訪れているのに、別々に観なければならないなんて、楽しみが半減してしまいます。
それなら、DVDを家で一緒に観たほうがよいと思う人がいても、おかしくはありません。
このような理由から、私が映画館へ行くときは、普通の座席へ移って鑑賞します。
座席へ移ると言っても、歩けないから車いすに乗っているわけで、簡単なことではありません。
一緒に行く人が力持ちであれば、お姫さま抱っこかおんぶ、それ以外は、お尻で階段を昇り降りします。
前者の場合、座席の選択肢は抱えてくれる人の体力に依存しますが、後者であれば最大5列、平均3列という具合です。
快適とは言えない環境をのみ込むか、移動の手間をとるか、当人たちの選択となっているのが実情でしょう。
しかし、呼吸器をつけていたり、特殊な車いすに乗っていたりする場合など、座席へ移れない人も数多くいます。
この場合、観づらい場所で、連れと離れてひとり寂しく鑑賞することを強いられるのです。
設置場所が最前列だったり、通路に面した列になるのは、なんとなく理解ができます。
緊急時の避難経路を確保するためなど、いろいろな事情があるのでしょう。
これだけ車いすスペースが普及したことは、有り難いことです。
けれど、車いすスペースを作っただけの現状では、映画館にとっての自己満足の域を脱していません。
もう少し、利用する人に寄り添ったカタチであってほしいと願います。
場所が限定されるのは仕方ないとしても、孤立していることの方が問題です。
映画を見に行く時と言えば、多くが誰かと一緒であることが想定されることから、それは明らかではないでしょうか。
最初から座席を外している車いすスペースのほかに、必要なときだけ座席を取り外せる席があってもいいように思います。
高齢社会であることを思うと、1席2席と言わず、横一列をすべて取り外し可にしてもよいくらいです。
もし、車いすの人がいないのなら、普通の座席として使えばいいのです。
そして、車いす同士で映画館へ行ったとしても並んで観ることができれば、一石二鳥です。
普通の座席の隣に、車いすのまま並んで座る――それくらい自然なものが求められているのではないでしょうか。
また、現状のまま使うとしても、心配りひとつで実用的にすることもできます。
車いすスペースで観る車いすユーザーの隣に、連れ用の椅子を並べてあげる――それだけで解決する場合もあるはずです。
でも、もっと気楽に柔軟に考えてもよいのではないでしょうか。
海外には、ベッドに寝転んで映画を観る劇場があるくらいです。
座席には移れないけれどベッドなら大丈夫、という重度の障害をもつ人には、歓迎されるかもしれません。
あまりコストがかかりすぎると普及しないのも事実です。
よい物でも行き渡らなければ意味がないので、現実的でもっと多くの人が気軽に利用できる映画館ができたらいいなぁと思います。
娯楽施設である映画館ですから、障害を気にせず自然体で楽しめる空間であってほしいものです。

イラスト:ふくいのりこ
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