《74》 人の温かさを改めて感じた入院
- 樋口彩夏
- 2014年10月7日
- 読了時間: 3分
ひさしぶりの入院は、小児がんの晩期合併症や、重粒子線治療の副作用とも言える、仙腸関節の骨折によるものです。
かかりつけの大学病院ではなく、系列病院のリハビリ科に入院しました。
初めての病院だけど、どこか懐かしい。とても不思議な感覚です。
久々に寝たきりの生活だったのが、懐かしさの一因かもしれません。
でも、やっぱり系列病院ということもあって、顔なじみのスタッフがいることも大きいのでしょう。
担当医とは、8年前に処置をしてもらって以来の再会です。
ベッドサイドに来るや否や、「あー、やっぱり彩夏ちゃんだぁ〜!」という声高な先生の声。
覚えていてくださったことに驚き、思い出話に花が咲きました。
作業療法士の先生も、手を振りながら近づいてきて、「名前と病名で、すぐ分かったよ!」と言います。
ほかにも「大きくなったねー!」などの声とともに、うれしい再会がたくさんありました。
当時はまだ10代だったことを思うと、その言葉にも頷けます。
なかでも一番うれしかったのは、ある患者さんとの再会です。
血圧降下による諸症状で入院をしていたとき、同じ病室だったお婆さん(仮名・山上さん)でした。
あれは、自民党から民主党へ政権が移った選挙のあった時期だから2009年、もう5年も経つようです。
作業療法士の先生を介して、今回、偶然にも山上さんと入院が重なっていることを知りました。
ベッドから動けない私に代わって、山上さんが歩行器を押しながら病室へ来てくれました。
病状が悪くなった姿を見るのはつらいと、一晩私のところへ来るのをためらったそうです。
恐る恐る病室へ入ってきた、山上さん。
骨折したとは言え、以前よりも元気になった私の姿を見て、涙を流して喜んでくれました。
「あのときは、ああやったね。こうやったね。つらかったね。
でも、今は、こげん(こんなに)大きくなって。しっかり笑えるようになって。本当によかった。」
私の身体を撫でながら涙する山上さんを見ていると、こちらまで泣けてきます。
5年前に入院した時は、体調不良から精神的にも大きく落ち込んでいました。
収縮期血圧が50mmHgを下回ることも多く、意識も朦朧として、いろいろと大変でした。
山上さんも大きな手術の後で、つらい時期だったと思います。
そんな状況にもかかわらず、実の孫のように可愛がってくれていました。
消灯後も、私が寂しい思いをしなくていいようにと、いつも頭側のカーテンを開けていてくれて、隣を見れば山上さんの優しい眼差しがある、そんな状況でした。
ベッドから動けない私は、どれだけ救われたことか。
ふたたび山上さんの大きな優しさに触れ、自分のことを心配して涙を流してくれる人がいるということの幸せをしみじみと感じました。
お互いが元気でいられることに、心から感謝したい気持ちです。
また、病床を見舞ってくれる人がいるのも、ありがたいことです。
お花に囲まれ、いろいろな方が見守ってくださっていることを実感しました。
今回の入院は、あらためて人の温かさを実感する機会となりました。
落ち込んでいる場合じゃない、ちゃんと生きなきゃ! ——そう勇気づけられました。

イラスト:ふくいのりこ
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