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《99》 災害時もエレベーターで避難?

  • 樋口彩夏
  • 2015年12月8日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年5月18日


みなさんの職場で、消防訓練が行われることがあると思います。以前、私の勤め先でも訓練がありました。

職員の約3分の1が動員されるのが通例で、私はそれまで、訓練には不参加の通常勤務組でした。大切な訓練とはいえ、営業時間中に実施されるため、さすがに職員総出というわけにはいきません。

でもこの時は、私も参加しました。数日前に上司からこんな依頼があったからです。「職場の性質上、障害者も多く来庁する。障害当事者の職員(私のこと)もいることから、災害時における障害者の避難についても真剣に考えたい。消防訓練に参加した上で、忌憚(きたん)のない意見を聞かせてほしい」。それを聞いた私は、もちろん快諾。急きょ、車いすユーザーの立場から、+αとして参加することになりました。

けれども、いざふたを開けてみると、車いすの私だけ、非常階段ではなくエレベーターで避難することに・・・。災害時、エレベーターは止まるはずです。それなのに、どうしてエレベーター? 私は、なんのために参加しているのだろうか? 事態をのみ込めないまま、エレベーター経由で避難場所へ向かいました。

一体、なぜ、このような展開になってしまったのでしょうか。

考えられそうな理由は、こんなところだと思います。

 (a)準備不足

車いす使用者の避難も実践さながらに行うつもりだったが、想定が甘く、具体的な避難経路まで考えていなかった。よって、急場しのぎでエレベーターを使う羽目に。

 (b)地上での簡易演習で十分

非常階段を使った介助方法を実際に行わなくても、地上での実技演習で事足りると考えた。

 (c)けがなどのリスク回避

介助の失敗による万が一の事故を防ぎたかった。

まず、(a)の準備不足について。障害者の避難介助も実技演習として訓練に取り入れようとする姿勢は、素晴らしいと思います。障害当事者としても、うれしい限りです。しかし、計画倒れに終わってしまっては意味がありません。今回の場合、職員に車いすユーザーがいるのだから、事前に想定される問題点と対応策を話し合ってから訓練に臨むべきだったのではないでしょうか。それに、訓練には消防署の方も同席しています。プロの指導のもとに行うのだから、安易に“エレベーターの使用”へ逃げなくても良かったはずです。

(b)と(c)が理由だとしたら、消防訓練の意義についての認識がそもそも足りないということになると思います。平常時に出来ないことは、有事の際にだって出来るわけがありません。また、「いざ災害となれば火事場の馬鹿力よろしく、階段介助も出来るはず!」と考えたのであれば、それは間違っています。一度も経験したことのない車いす介助を、いきなり災害時にやろうと思っても、戸惑ってしまうのは当然のことでしょう。

そしてこの消防訓練、どうしてもふに落ちないことがあります。なぜ、負傷者や障害者を搬送するための実技指導が行われていないのでしょうか。

ここ(私の勤め先)は、公的機関です。ましてや、年間をとおして障害者が訪れる部署を含んでいる職場——。ひとたび災害が起きれば、身体の不自由なお客様が危険にさらされることが容易に想像できるはずです。

想定していなければ、とっさに動けないのが人間です。消火器の使い方も大事だけれど、負傷者の救助も同じくらい大切と言えるでしょう。もし、時間や人的に業務上支障が生じるのなら、実技の訓練は関係部署に限ってするなど、工夫の余地はいくらでもあるはずです。

防災意識の低い傾向にある日本において、「訓練」より「目の前の事」に重きが置かれるのも理解できなくはありません。しかし、有事の際にうろたえなくてよいよう、実践的な指導をとり入れてしかるべきなのではないでしょうか。こうしたことに行政が積極的に取り組む――、その姿勢を見せることが大切だと思います。

イラスト:ふくいのりこ 


<アピタル:彩夏の〝みんなに笑顔を〟>

http://www.asahi.com/apital/column/ayaka/ (アピタル・樋口彩夏)


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