《47》 完璧を追い求めると使いづらくなる
- 樋口彩夏
- 2014年1月22日
- 読了時間: 5分
前回につづいて、「身体に障害のある人も使いやすいホテルが増えるには、どうしたらよいのだろうか?」。
「《45》あの東横イン 引き算の発想」に書いた、設備と価格のバランスがとれた好事例・東横インをふまえて、UDルームの数について考えます。
ホテルや旅館などの宿泊施設の一部には、身障者・高齢者への配慮がなされた、ユニバーサルデザイン(UD)ルームなどと称される客室があります。
しかし、一般の客室とくらべて圧倒的に数が少ないことは、だれの目にも明らかだと思います。
今あるUDルームの多くは、「完璧」を追い求めた末に、「過剰なバリアフリー」となっているのが現状です。
それゆえに、数を増やすことができないでいるのでしょう。
広~い客室や、いたるところに設置された手すり、立派な多機能トイレに移乗台や電動ベッド等々――。
これらの揃った客室こそ、みんなが使いやすいユニバーサルデザインだ!と言うかのように、どこのホテルも似通った造りとなっています。
でも、このフル装備のUDルームを造るのって、いろいろな意味で大変な気がします。
建設コストもかかるし、広くなきゃいけないし、その上、さまざまな設備をそろえなくてはなりません。
こんなにも、お金・物・手間のかかるUDルーム。
現実的に考えて、普及するカタチではないように思います。
車いすで使える部屋が増えてほしいと願う私でさえ、この客室の普及を望むことは、造り手に対して気の毒でなりません。
フル装備の客室が少数あるよりも、それなりに使える客室がたくさんあったほうが、多くの人に喜んでもらえるのではないでしょうか。
巷のホテルにあふれた、「ザ・UDルーム」。
画一的なカタチは、どこから生まれたのでしょうか。
はたして、本当にそれだけが“答え”なのか、私は疑問に思います。
この部屋を必要とするのは、障害や加齢によって身体に不自由のある人でしょう。
不自由にも、いろいろあるはずです。

たとえば、車いすユーザーと手すりに焦点をあててみます。
見た目には、同じように車いすに乗っている人が、ふたりいました。
ひとりはまったく歩けない、一方は手すりがあれば数歩なら歩くことができる、なんてことも十分にあり得ます。
そこかしこに設置された手すりは、私のような常時車いす使用者にとって、通路幅を狭める不必要なものでしかありません。
しかし、それがあることで助かる人がいるのも事実です。
また、部屋の広さはどうでしょうか。
車いすユーザーには必要だけれど、目・耳・手・足の不自由な人にも必ず必要かというと、それはNOです。
UDルームにある設備のどれをとっても、それを必要とする人もいれば、それがあることで支障をきたす人もいる、ということです。
あちらを立てれば、こちらが立たずという、この状況。
適切なバリアフリーの程度を示す線引きなんて、できないんじゃないかって思います。
「バリアフリー、ユニバーサルデザインに、完璧は存在しない。」
完璧なカタチを、たったひとつの答えとせず、さまざまなカタチの答えがあってもよいのではないでしょうか?
視覚、聴覚、身体においては障害部位ごとに、それぞれ異なった要望があります。
でも、それには相容れない箇所もあることから、すべてを網羅することは不可能です。
どこかで、折り合いをつけなければいけません。
ひと部屋しかないフル装備よりも、それなりに使える部屋がたくさんあるほうが、絶対によいはず!
最低ラインは、どこが不自由な人でも部屋に入れて、トイレ・お風呂にアクセスできること、が落しどころのように思います。
要所要所にアクセスできる――その環境さえあれば、あとは、どうにでもなります。
冷たく聞こえるかもしれないけれど、そこから先は利用する人、各自の工夫にまかせてよいと思うのです。
入口の段差をなくし、車いすの通る間口を確保しただけの東横イン・ハートフルルームは、それを体現したものと言えるでしょう。
普及を考えるのなら、もっと省いてもいいのかもしれません。
これくらいなら、広さとコストを見ても、一般客室と大差ないのではないでしょうか。
ということは、“特別な工夫”だったり、“身障者専用”にしなくてもいいのでは?
いっそのこと、全客室、入口広めの段差なしUDルーム、なんていかがでしょうか。
その心は、ユニバーサルデザイン=みんなにとって、使いやすい。
ホテルにおける“おもてなしの心”は、そこに通じていると思うからです。
そうは言っても、最低ラインの客室では、どう頑張っても泊まることのできない重度の人もいます。
数は多くなくてもいいけれど、やはり、フル装備の客室も必要なのです。
そこだけは、“専用”である必要があると思います。
だとしたら、一般客室にランクがあるように、UDルームにも程度の差があってもいいのかもしれません。
入口の段差なし、間口広めを標準装備としたうえで、さまざまな仕様の客室を備え、さまざまな人を受け入れる素地があること。
これこそ、ホテルのホスピタリティーにおける根源ではないでしょうか。
ホテルにとって負担がなく、たくさんの人が利用できるカタチ――。
そう遠くない将来に、そんなステキな空間が広がっていることを願います。

イラスト:ふくいのりこ
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