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《45》 あの東横イン 引き算の発想

  • 樋口彩夏
  • 2014年1月7日
  • 読了時間: 5分

前回「《44》 健常者が思う「車いすOK」との落差!」で、車いすユーザーがひとりで泊まれるところを探すのって、とっても大変!ということを書きました。

数あるホテルの中から、私が出張するときの定番となったのは、「東横イン」。

・・・意外ですか?

東横インといえば、2006年1月に発覚した不正改造問題があまりにも有名です。

当時、病院やホテルなどの公共性が高い建築物に対して、身体障害者等も利用できるような建築的配慮をするように義務づけた、通称・ハートビル法という法律がありました。

不正のいわれは、これを守れなかったことです。

ホテルの建設当初、身体障害者用の客室や駐車場を造ります、と言って許可をもらいました。

それなのに、利用される頻度が低いからと、会議室など本来の目的から外れた用途に造りかえてしまった。

黙って、そうしたものだから、これ、許可を出した仕様じゃないよね?となったのです。

よって、不正改造となりました。

2006年といえば、12月にバリアフリー新法が施行された年でもあります。

これは、利用者が不特定多数の施設に対するハートビル法と、旅客利用施設に対する交通バリアフリー法を合体させて、対象施設を広くしたものです。

より横断的に、広い範囲にバリアフリーを適用しよう、という意図からなっているのでしょう。

「東横イン不正改造問題」と「バリアフリー新法」の施行。

ホテルなどの宿泊施設におけるバリアフリーは、この2つをきっかけに大きく前へ進みはじめました。

私が東横インを選ぶ理由は、次のとおりです。

車いすひとりでもOKな部屋の造り

通常の客室と同じ価格

東横インとは、全国各地の都市に店舗をもつ、ビジネスホテルです。

比較的、駅の近くにホテルを構え、店舗数の多さと安価が売りのホテルと言えるでしょう。

全店舗には各1部屋、車いす使用者をはじめとする障害者の利用を想定した客室が設置されています。

その名は、「ハートフルルーム」。

シングルのAタイプとツインのBタイプ、2種類の仕様です。

まず、一般客室の造りとの違い。

それは、トイレとお風呂にあります。

ビジネスホテルは、華美な内装を省き必要最低限のシンプルさにすることで、低価格を実現しています。

お風呂とトイレがひとつの箱に収まった、ユニットバス仕様が一般的なところでしょう。

すると、入口には、神社の敷居様の段差ができてしまいます。

これでは、車いすのまま入ることができません。

そこに、ひと工夫。

段差をとっぱらい、平らな入口にしたのが東横インのハートフルルームです。

ほかにも細かな工夫はあるけれど、一番大事なのは、“段差がなくて車いすが通る幅”があるということ!

おもな違いは、これだけです。

しかし、“これだけ”というのが、東横イン・ハートフルルームの最大の売りであると、私は考えます。

ホテル全般における価格へ、視点を移してみましょう。

ユニバーサルルームなどと称される客室の場合。

ホテルごとに、同じ収容人数の客室と値段を比較すると、その多くは1.5~2倍の料金設定になっているようです。

そう、とにかく高い!

どうして、そんなに値段が違うのでしょうか?

その理由は、過剰なバリアフリーにあります。

広~い客室や、いたるところに設置された手すり、立派な多機能トイレに移乗台や電動ベッド等々、落ち度がないようにと言わんばかりのフル装備が施されています。

ホテルならではの非日常を味わえる趣は、どこへやら。

その雰囲気は、病院や介護施設を連想させるものも少なくありません。

これだけの設備をそろえるとなれば、建設コストも相当なものです。

当然、価格が上がるのは避けられないでしょう。

あれも必要これも必要と、足し算でユニバーサルデザインを求めていたら、切りがありません。

そこで、東横インの引き算の視点からなる、“これだけ”が活きてくるのだと思います。

「完璧なバリアフリー・ユニバーサルデザインなんて、存在しない。」

必要最低限のバリアフリーにすることで、価格が一般客室とほぼ同等に抑えられているのは、とてもありがたいことです。

もうひとつ、理由をあげるとしたら。

すべての店舗にハートフルルームがあって、どこも同じ造りで統一されているという、安心感でしょう。

ひとりの場合、お風呂やトイレで困っても、助けを求める相手はいません。

はじめて泊まるホテルであれば、不安もひとしおです。

でも、東横インのハートフルルームなら、1箇所泊まった経験があれば、そのあとは勝手知ったるなんとやら。

お風呂へ入る際、濡らしてもよいシャワー用の椅子を無料で貸してくださいます。

これも同じメーカーの同じ商品で、統一されています。

全国どこでも同じ造りだから、要領を得ているので、ひとりでも安心して泊まることができるのです。

脊損をはじめとした車いすユーザーの確実な宿泊先となった、東横イン。

不正改造問題を経て、バリアフリーの先進ホテルへと転身した経営姿勢に、敬意と感謝の気持ちを表します。

次回は私が考える、障害者の利用におけるホテル業界の課題についてです。

イラスト:ふくいのりこ 

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