《63》 遠回りって、実は知らないの
- 樋口彩夏
- 2014年5月28日
- 読了時間: 4分
先日の東京滞在中、知人と電車で下記のような移動をしていたときのことです。
【 参宮橋駅 ~~(小田急線)~~ 新宿駅 ~~(JR)~~ 品川駅 】
車いすの私がひとりで電車移動をする際には、乗り降りにスロープを使った介助が必要です。
そのため、駅構内の移動には、駅員さんが同行してくださるのが常となっています。
しかし、今回は知人が一緒です。
駅員さんの手を借りなくてもよいと判断し、介助依頼をせずに小田急線へ乗り込みました。
程なくして新宿駅へ着くと、当然のことながら、ホームに駅員さんの姿はありません。
ほんの一瞬、どうやって降りよう……と、不安がよぎったことを鑑みると、習慣っておそろしいなぁと思ったりもします。
次の行程は、小田急線からJRへの乗り換え。
人でごった返す新宿駅を前にして、ここでエレベーターを探すのは難儀だろうなぁと、私は漠然と思います。
それでも、まぁ、どうにかなるだろうと、進路を知人に任せ、楽観的に進みはじめました。
数メートル進んだところで、はたと立ち止まった知人は、おもむろにスマホを取り出します。
なにかと思えば、見ていたのは、JR東日本が提供しているアプリの構内図。
私の経験則は、新宿ほど大規模な駅の場合、既存の情報網・量では欲しい答えは見つからない、と言っています。
でも、土地勘のある人が見れば分かるのかも! それなら見るコツを教わりたい! と好奇の眼差しを寄せていました。
結局のところ、アプリでエレベーター経路を把握するのは断念し、駅員さんに道順を教わることにしました。
その説明を聞いても、私の理解は追いつきません。
でも、知人は理解したようです。
あっちへ行って、こっちへ行って、また、あっちへ……。
複雑怪奇な順路を経て、なんとか目的の電車がとおるホームへたどり着きました。
一連の移動を経て、知人は寂しそうな顔でこう漏らしました。
「こんなに遠回りをしなくちゃいけないんだね……。」
この言葉の裏には、エレベーターの設置場所を示す情報が不足している現状があります。
しかし、実際問題、私はひとりで電車移動をする際に困ったことはありません。
なぜなら、駅構内の移動は、駅員さんの先導のもとにあるからです。
また、エレベーター利用のみで構成された車いすルートが遠回りだ、ということもピンときませんでした。
それを想像するだけであれば、容易に察しはつきます。
多くの人にとっては、可能な限り近道をすることが、当たり前なのかもしれません。
でも、最短ルートを経験することのできない私には、遠回りという実感がともなわないのです。
車いすルートが遠回りという概念は、ほかに比較するルートがある人にしか存在し得ません。
知人の言わんとしていることは、なんとなく想像できます。
「車いすであろうと、便利なルートの恩恵を受けられる環境であるべきだ」
たしかに、それが正論だと私も思います。
エスカレーターも階段も何でもありの最短ルートと比べたら、車いすルートが分かりにくい上に、とってもとっても遠回りなのは事実です。
心情的には、より一層の設備の充実と拡充をもとめたい、というのが本心です。
しかしながら、建物の構造上、どこにでもエレベーターをつけられる訳ではありません。
エレベーターがない駅だって、まだ存在しています。
まずは、すべての駅に最低限の設備を敷くことが、先決なのではないでしょうか。
それを踏まえて現実的に考えると、こう思うようになりました。
「地上から改札、ホームまで、車いすで移動のできるルートが、最低でも1つ確保されている。それだけでよい。」
これに沿うなら、都営地下鉄の“1ルート確保”という記載は、車いすでの電車利用において非常に参考になります。
その表記さえ確認すれば、この駅はOK! と一目で判断ができるからです。
車いすに乗っていることを理由に、利用できる駅の選択肢が減るなんて悲しすぎます。
はなから理想を下げるのは不本意だけれど、遠回りでも、不便でも、とりあえず全ての駅が利用できる! 、まずはそうなってほしいと願います。
その先に、車いすでも、より便利に快適に、という姿があるのではないでしょうか。
歩けない、車いすという物理的な壁がある以上、すべてに対して健常者と同レベルを望むのには限界があります。
設備や安全面、仕組みの維持管理などを総合的に考えた上で生まれる折衷案や妥協策であれば、それはそれでひとつの最善策になり得るように思います。
何気ない日常から新たな気づきを得た、電車移動でした。
最短ルートを知らないから、遠回りであることにも気が付かない――。
駅員さんの介助が常という前提によって、情報提示への対応・気づきが遅れてしまう――。
経験として分かってはいたけれど、こうやって整理をしてみると、ちょっぴり物悲しい気持ちにもなりました。

イラスト:ふくいのりこ
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