《96》 レジャーに、災害時に……心強いJINRIKI
- 樋口彩夏
- 2015年7月3日
- 読了時間: 4分
6月上旬、全国の女性議員を集めた政策研究会が、自由民主党女性局の主催で行われました。
丸2日間にわたってみっちり組まれている講義のひとつに入っていたのは、JINRIKI(じんりき)の実演会です。
「JINRIKI」とは、車いすの前輪を持ち上げながら引くことのできる“棒=けん引式車いす補助装置”のことです。
車いすで、舗装が崩れた道路や芝生、砂利、雪道や砂浜などの悪路を進もうとすると、小さな前輪が引っかかり、押せども押せども遅遅として進まない、そんな状態に陥ります。
前輪を持ち上げる発想は、ハンドバイクなどにも見られるように、前例がありました。
今回、特筆すべきなのは“押してダメなら、引いてみよう!”、まさに発想の転換です。
商品名からも連想できるように「人力車」から着想を得て、「JINRIKI」は生まれたそうです。
災害時の避難をはじめ、車いすの子供が健常な友達と一緒に野外へ出かける際の一助にもなるでしょう。
この日の実演会は、女性議員を対象にしたものと、すべての議員を対象にしたものの2本立てです。
あるモノや制度がどのような空気感を経て議員の方々に受け入れられるのかに関心のあった私は、株式会社JINRIKIの社長に同行させていただきました。
実演会は、製品の特徴や導入事例、今後の展望など、社長による講義からはじまります。
そして、「車いすに乗る側」と「介助する側」双方の視点から、実際にJINRIKIを体験するという構成でした。
体験用に用意された障害物は、2種類。
・枕木様に並んだ1cm、2cm、3cmの段差は、悪路を想定しています。
・その先には、雪道を模した三つ折りマットレスが続いていました。
これは、かなりの難易度です。
私のように車いすに乗って生活している人であれば間違いなく避けるだろうし、ベテラン介助者がいても困難を極めるレベルと言えるでしょう。
今回のだいご味は「介助する側」にあります。
普通に車いすを押して障害物を通ろうとしたとき、だれひとり走破できた議員さんはいませんでした。
しかし、JINNRIKIで車いすを引いてみると、この難関コースをいともたやすく越えられるのです。
あまりの違いを受け、どの議員さんも驚きつつも、興味深げに質問を投げかけていました。
記憶に新しい、東日本大震災。
その惨状は大きく報道され、4年経った今でも鮮明に思い出せるほど衝撃的なものでした。
被災した人の中には、加齢や障害によって避難が困難だった人も、相当数いたはずです。
ひとたび災害が起きれば、エレベーターは止まり、道路はガタガタ——。
車いすで生活をしている私は、どう避難したら良いのかさえ想像もつきません。
そもそも逃げきれる気がしないくらい困難で、課題が山積していると言えるでしょう。
そんな現状において、希望を見いだしてくれるのがJINRIKIです。
社長の講演の中で、ご自身の経験から、こんなくだりがありました。
「海などのレジャーに行けないのは我慢すれば済む話だが、この“我慢”が災害時には命取りになる。」
さまざまなお話の中でも、同じような経験があったことから、一番印象に残っている部分です。
私も車いすの生活になって以来、一度も海に行ったことがありません。
河川敷などの芝生も避けてきました。
けれども、それを災害時の行動と結びつけて考えてみたことはなかったのです。
日常の中では、車いすであるが故に行くのを諦める場面も多々あるだけに、ヒヤリとした瞬間でもありました。
今JINRIKIは、各自治体で防災用品に指定されるなど、広がりを見せているようです。
また、バリアフリー化に限界のある観光地での活用も大いに期待できるでしょう。
すこし違う分野に目を向けてみると・・・。
たとえば、学校の遠足や修学旅行の行き先は、自然豊かな場所であることがほとんどです。
同級生と楽しみを共有できず、寂しい思いを強いられているのは、普通学級に通っている車いすの子供たち。
そこにJINRIKIがあれば、車いすの子供もみんなと同じ時間を過ごせるのではないでしょうか。
これによって救われる命があること、そして笑顔が広がることを期待しています。

イラスト:ふくいのりこ
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